糊塗日記

不定期更新。学生です。

「デリバリーおじさん」1話感想

少年ジャンプ+でおじさんが主人公の新連載が始まったので読んでみた。絵も悪くないしハードボイルドは一時期ハマっていたので期待して読み始めた。そのためかあまり面白くなかった。単純につまらないに留まらない、悪い意味で微妙な読後感を味わったのでそれを発散するために感想を書いていきたい。

全7回で終わるらしいことと絵の感じからわかるが実験的な連載だろう。作画担当の青野てる坊氏の名前を検索するとジャンプルーキーに投稿した過去の作品が見れる。硬い印象があるがこだわりが見られる絵を描いていて良い。読みやすいと思う。原作担当の岡悠氏の名前は検索しても竹職人しか引っかからなかった。無関係だろう。…無関係だよな?いずれも新鋭の作家なので公開する作品に多くは求めないのだがこの路線で成長していってもつまらないまま完成しちゃいそうな気がした。つまらないというか趣味が合わないと言い換えることもできるが自分の価値観が大衆から外れているとは思わないのでその辺はあまり気にせず書き進めていく。

まず一番文句が言いたいのはおじさんの表情だ。

主人公の佐々木(48)はデリバリーおじさんという便利屋の派遣みたいな仕事をしている。今回は高校生の依頼で彼の実の両親の墓参りに行くことになった。高校生真壁くんは事情があって墓参りに行けないためおじさんに代行してもらいたいというわけだ。細かい事情は長くなるのでここで説明しないがまあ人情のあるシチュエーションで悪くないと思った。

で、おじさんがいつもへらへら薄ら笑いを浮かべているのが問題だ。これから墓参りに行きましょうという本来緊張するような場面でもおじさんの表情筋は弛緩しきっており状況に合わない。この時点で筆者が求めていたのはおじさんのキリッとした顔だった。高校生相手ににこにこするのは接客の経験を見せる演出としてありだが誰もいないところでへらへらしているのは違うだろう。作品の空気がすこし怪しくなってくる。求めていたハードボイルド像がこのとき遠のいた。表情の緩みきったままの人物は底の浅い人物だ。

この作品はどうもリアル志向の空気を醸し出しているが出てくる人物がみな聖人君子並みの良い人である。オカルトとか魔法とかとは無縁な世界観だがだからといってことごとく聖人ばかり出しては読者の住んでいる世界から遠のく。作者はこちらの世界と作中の世界の距離感をかなり近く設定しているのだろうが、残念。こちらの世界は残酷なのだ。悪者でなくとも空気の読めないバカでも1人登場させていれば空気感が中和されて受け入れやすかったかもしれない。ババアから高校生に至るまで礼儀正しすぎるのはどう考えてもやり過ぎだろう。

おじさんのタバコの吸い方がダサい。途中「ん

プッハ」と盛大に煙を吐くシーンがあるのだが作画担当がタバコを吸ったことがないのがわかる。煙の量が尋常じゃないせいでギャグっぽい。電子タバコならまだしも紙タバコでこの煙の量はあり得ない。またババアの質問に答える直前で煙を吐くのでおじさんの態度が悪いように見えるしこの絵面のせいでふたたび緊張感が薄れた。

主人公の過去が見たかった。話が終わった時点でおじさんに欠点がなさすぎて面白くなかった。読者に「デリバリーおじさん」を読む理由を与えないとダメなのだ。現時点でそれは「30コインもらえること」だけであり、2話を読む読者は減るだろう。「主人公佐々木がまた見たいぞ」と思わせればファンもつくだろうし単純に続きが気になる作品に成長する。キャラクターの存在感も増す。短期連載であれその部分を1話から見せなければいけなかった。これが欠けていたことがこの作品の微妙な読後感につながったものと推測する。しかしキャラに魅力がないことがここまで致命的にこちらの満足感を削ぐものとは思っていなかった。それを気づかせてくれた点が筆者にとっての「デリバリーおじさん」の功績だろう。

とにかく期待はずれで残念だった。物語の洗練されている感じが全くなく、無料で読めるから良かったものの有料であればすごく嫌な気持ちになっていただろう。原作者の日記帳みたいな印象があった。こんなおじさんがいて、こんなババアがいて、こんな仕事があって、と趣味を全開にするのは望むところであるがせめてエンタメとして昇華してもらわなければ読者の心を掴めない。たとえ趣味の合う人物がこの漫画を読んだとて面白いと思うかは怪しいと思う。設定ノートや日記帳ならまだしも漫画に期待していた要素が色々と不足していたように感じた。

終わり。

自分の中で絡まっていた糸がほぐれた。すっきりした。