糊塗日記

不定期更新。学生です。

「イミテーション・ゲーム」感想

本作は実在する人物アラン・チューリングの伝記である。

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碧眼の社会不適合者 アラン・チューリング

第二次世界大戦。天才数学者アランはドイツ軍の誇る暗号エニグマの解読を命じられる。世界最強と名高いエニグマのパターン数は10人の人間を1日24時間働かせてすべてを調べ終えるまで2000万年かかるという膨大な量だった。暗号解読のために集められたアラン含む6人の天才たちは英国政府にチームを組まされるがアランは一人で黙々と機械を作り続ける。チームワークを考えないアランと彼の姿勢に辟易するほかのメンバーとの溝は深まっていく。そんな中アランを救うのはクロスワードパズルの天才ジョーン。彼女の手助けによりすこしずつ仲間との溝を埋めていくアランは彼らに助けられつつ、ついにエニグマの解読に成功する。

(自分の中のノウハウに則りあらすじを書いてみたが本映画の公式サイトのほうがわかりやすくまとめられているので興味の湧いた方は以下のリンクからご一読ください)

http://imitationgame.gaga.ne.jp/

  • アランについて

本映画の主人公はアラン・チューリングというひとりの男性である。映画を見ていくにつれて彼についての興味がどんどんわいてくる。本作の最初の本筋はドイツ軍誇る暗号・エニグマをいかにして解読するかなのだが、そのためにアラン含む6人が解読チームとして集められる。彼はほかの天才とは一味違う見解を見せはじめ暗号の核心に近い部分をかなり早い段階から見抜く。またそれに基づいた新しいチーム編成をほかのメンバーに相談もせずに着々と進める。なにもかも協調性を持とうとしないし社会性には確実に欠けている。常識的な考え方とはかけ離れた彼の一挙手一投足は見る側の期待を扇動する。またストーリーが進むにつれて、彼自身の過去についても明かされるようになっていく。最初はアランを経歴なき天才数学者に見せている脚本が徐々に繊細な人間模様を描き始めるとアランに同情せずにはいられない。

しかし客観的な見方をするとアラン・チューリングは紛うことなき変人であり社会不適合者であった。考えるに彼が他人と関わりを持てなかったことと暗号を解読できたこととの間に大きな関連性はない。数学の才能、また暗号解読の才能が結果的にアラン・チューリングというひとりの男性を救ったのだ。解釈は分かれると思うが、アランが社会不適合者であったという一点は覆ることはないと考える。

脚本の大枠は取り調べである。アランの家に空き巣が入り、その事件が妙であったため架空の人物・ロバート・ノック刑事とアラン・チューリングふたりの会話の中でなされたアランの独白が本編として視聴者に見せられる。取り調べの中でアランが発する「イミテーション・ゲーム」という言葉が本作の主題である。これによってアランは果たして天才だったのか、モンスターだったのかという問いが視聴者に投げかけられていたことが明かされる。あまりに悲しい問いかけである。

アランを演じたのはベネディクト・カンバーバッチ。見たことのある映画のなかでは「ホビット」に出てくるスマウグというキャラクターを演じていたらしい。スマウグは竜である。そんなのわからん。ベネディクトの演じるアランはアランそのものだった。変人で天才でモンスター。なにを考えているかわからないが彼の考えはいつも核心を突いている。アランの表情ひとつひとつがこの映画のすべてだった。碧眼はずるい。微妙な表情と狼のような青い眼は彼の真意を包み隠すようでつねに画面に釘付けにされた。外国人の顔はかっこいいな。邦画より洋画を好む理由のひとつである。

外国人の顔はどれも同じに見えていたのだが最近マーク・ストロングと、本作には出ていないがサミュエル・L・ジャクソンの二人は顔を見るだけで名前が浮かぶようになった。マーク・ストロングはよくマシュー・ヴォーン監督作に出ているからそのためだろう。彼の顔に見覚えがあると思ったときはすこし感動した。本作では英国政府の偉い人を演じている。

  • クリストファーとの会話

彼の親友・クリストファーはアランの回想シーンにて描かれる彼の唯一の親友である。アランは政府から大金を投じてもらいエニグマ解読のための装置を完成させる。その装置に名付けられたのがクリストファーという名前だった。これは映画上の演出で、実際にはクリストファーの名前は付けられなかったらしいのだが素晴らしい演出だと思う。

アランは学生時代、成績がよかったことと彼自身の性格のせいでいじめの対象になっていた。そんな彼の心の支えになっていたのがクリストファーだった。授業の間に手紙を渡しあい、その手紙に書かれている暗号をお互いに解き返事を出すのが二人のあいだで行われていたゲームだった。このときのアランはとても生き生きとしていて幸せが伝わるよい表情をしている。ある日クリストファーが読んでいた本にアランが興味を示す。暗号解読に関する本だった。暗号について語るクリストファーにアランは疑問を示した。

「真意を隠した文章? それは会話とどう違うの」

アランの発した言葉は映画を視聴し終わったあともずっと脳内で反芻されることとなった。暗号と会話はどう違うのか。映画の前半でほかの解読チームがランチに行く際「俺たちはスープを飲むぜ」とアランに声をかけるシーンがある。普通であればお前はランチに来るか?という質問と考えそれに対する返事をするだろう。しかしアランは彼の「スープを飲む」事実だけを読み取り、ランチの誘いと考えなかった。この一幕を踏まえ、上のセリフはアランの人物像を十全に表しているものといえるだろう。この言葉を引き出した親友クリストファーは作中現在の彼を救った女性・ジョーンよりも重要な人物である。自分にとってこのシーンが映画「イミテーション・ゲーム」を名作だと決定づけた。

  • アランはモンスターだったのか

イミテーション・ゲームについてだが、有名な言葉では「チューリング・テスト」と呼ばれる。一人の被験者が二人の人物と会話し、中身が機械であるどちらか一方を当てられるか、というテストだ。映画では架空の人物ロバート・ノック刑事との会話でアランがこの言葉を口にする。この瞬間映画の視聴者は自分がイミテーション・ゲームによってアランの中身が人間であるのかモンスターであるのかを試されている被験者だったのだと気づかされる。

解釈の一つを挙げる。アランは人間である。豊かな感情を押し殺しすべての物事を冷徹にこなすモンスターではない。彼の表情がすべてを物語っていることが最も大きな要因であり、また彼がもし人間能わざる存在だった場合第二次世界大戦において死亡者の数を大きく抑えたのは誰だったのか。のちに彼の映画を作るほどに彼自身に引き付けたのは誰なのか。そこに納得いかなくなる。

アランがジョーンに嘘をつくシーンが一番つらい。彼は人間だったが、周りには彼はモンスターであると思わせなければいけなかった。すべての罪を彼ひとりが被るために。

  • おわりに

エモーショナルな文章を書いて恥ずかしい。しかし感情を昂らせるほどに素晴らしい映画だった。文章には書かなかったが仲間内のスパイを探すミステリー的な要素、ジョーンとの恋愛的な要素も含んでおり114分でまとめられていたとは思えない充実感を味わうこととなる。図書館で借りたDVDで見たので実質無料で視聴したのだが叶うことならお金を払って劇場で見たかった。